217回目の今日お届けしたのは、「柴咲コウ/かたち あるもの」でした。
1981年8月、東京都豊島区に生まれた柴咲コウは、音楽好きの父親の影響で、幼い頃からクラシックや60年代のポップスを聴いて育ちます。
子どもの頃は、花屋か保母さんになりたいと思っていた柴咲コウは、彼女が14歳の時に、友達と街を歩いている時にスカウトされて、高校に入学すると同時に芸能事務所に所属、1998年に、TBSテレビの情報番組の出演者の一人として、デビューします。そして、翌年の1999年に「ファンデーションは使っていません」のセリフが話題となった「ポンズ・ダブルホワイト」のCMに出演したことで注目を集め、その後は、数々のTVドラマや映画、CMなどに出演します。特に、2001年に公開された映画『GO』では、その演技力が評価されて日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞、注目の若手女優の一人として、アイドル的な人気を集めていきます。
「僕が初めて彼女に出会ったのは、2001年の初夏、レコーディングスタジオだったと思います。当時彼女は、2本のTVドラマに出演中で、とても忙しく、レコーディングもかなり慌ただしい中で行われたんです。彼女は、休憩中も余り喋らず、きりっとした顔立ちで、強い目力を持った、大人っぽい雰囲気だけが、その時の印象として、僕の頭の中に、強く残っています」。
現在も、レコード会社で、柴咲コウの宣伝担当を務めている高瀬さんは、当時についてこう振り返ります。
「女優としてブレイクした彼女が、歌手としてデビューするキッカケは、実はラジオだったんです。当時放送されていた、ニッポン放送の深夜番組『グローバーのウラナイ!』の中に、「柴咲コウ 夢の印税生活」というコーナーがあって、そのコーナーで、リスナーから募集した歌詞を、彼女が歌う企画が行われたんです。リスナーから送られてきた歌詞をもとに、プロの作家が補作して、1枚のシングルが作られたんです。」
こうして、2002年7月、柴咲コウは1stシングル「Trust my feelings」をリリースするのでした。
2002年7月、柴咲コウは1stシングル「Trust my feelings」をリリースしますが、世間的には、さほど注目されることはなく、セールスチャートも最高位50位にとどまります。
「実は、このシングルのカップリング曲は、彼女が歌詞を書いています。元々、文章を書くのが大好きだった柴咲コウは、喜んで歌詞を書いていました。ただ、柴咲コウにとって、この時は、あくまで女優業が、本業でした。TVドラマ、映画、CMなど、ひっきりなしに出演オファーが届いていて、レコーディングやプロモーションの時間がまともに確保できない状態だったので、他の女優さんが、1曲か2曲リリースして、歌手活動を終えていくパターンと、正直同じようになっていくのでないかと、僕らレコード会社のスタッフは感じていました。ところが、この1stシングルを聴いた映画監督・塩田明彦さんが、彼女の歌声に興味を持ってくれて、翌年の2003年1月に公開が予定されていた映画『黄泉がえり』の中で、歌姫・RUI役で彼女が出演することになり、柴咲コウ自身が、その主題歌を歌う事が決まったんです」。
こうして、2003年1月、柴咲コウは映画『黄泉がえり』の劇中歌であり、主題歌でもあるシングル「月のしずく」を、彼女の映画の役柄名RUI名義で、リリースするのでした。
2003年1月、柴咲コウがRUI名義でリリースしたシングル「月のしずく」は、映画『黄泉がえり』が大ヒットしたこともあり、セールスチャート最高位1位を獲得、約83万枚のセールスを記録します。
「正直、この曲のヒットは、柴咲コウ本人、そして僕らも全く予想していませんでした。柴咲本人も改めて歌手活動を続ける事を決意し、僕らスタッフも、女優としてではなく、歌手・柴咲コウとしての個性をどう作って、売り出していくのか、プランを練り始めたんです」。高瀬さんは、当時についてこう振り返ります。
柴咲コウの、歌手としての個性を見つけ出そうとする中で、高瀬さん達スタッフは、彼女の作詞能力に注目します。
「デビューシングルのカップリングの歌詞を書いたことをきっかけに、彼女は、カップリングやアルバムの曲の歌詞をいくつか書いていたんですが、その歌詞は、ほぼ全て、日本語のみで書かれているのが特徴です。しかも、今では、ほとんど使わなくなった古い日本語表現を使うことが多いんです。文字だけだとわかりづらい言葉も、実際に、艶のある彼女の歌声で歌ってみると、独特の雰囲気を持った歌になって、聴く人の心にすっ、と入ってくるんですね」。
歌詞を書くとは大好きだった柴咲コウの下へ、その才能を開花させる一つのチャンスが巡ってきます。
「柴咲コウ自身も出演し、2004年5月に公開されて大ヒットした映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』のTVドラマが、その年の7月から放送される事が決定して、その主題歌を彼女が歌う事が決まったんです。そこで、制作スタッフは、彼女自身、映画に出演していたので、作品のストーリー、世界観は十分に分かっているだろうから、彼女自身に作詞をさせてみようということになったんです」。
「彼女が歌詞を書く時は、まず曲があって、スタッフが用意した候補曲の中から、彼女自身が、自分で歌詞を書いて、歌えるかをポイントにして、曲を選び、実際に歌詞を付けています。この曲の時は、そうやって2~3曲書いたと、当時の制作ディレクターから聞いています。その中でも、実は、彼女自身が余り良い完成度ではなかったと言っていた曲を、ドラマ『世界の中心で、愛を叫ぶ』のプロデューサーが選び、最終的に主題歌として決まったんです」。
こうして、柴咲コウが、初めてシングルのA面曲の作詞にチャレンジした6枚目のシングル「かたち あるもの」は、2004年8月にリリースされるのでした。
2004年8月にリリースされた、柴咲コウ6枚目のシングル「かたち あるもの」は、セールスチャート最高位2位、約64万枚のセールスを記録します。
「映画主題歌のヒットから、歌手としても注目を集めはじめた彼女が、今度は、自ら作詞した曲で、ヒット曲を生み出すことができました。結果として、彼女はこの曲で、歌手としてもやっていける自信を掴んだんです」。最後に、高瀬さんはこう振り返ってくれました。
女優・柴咲コウが、もうひとつの顔、歌手・柴咲コウとしての才能を開花させた、J-POPの名曲が生まれた瞬間でした。
今日OAした曲目
M1.V.A.C.A.T.I.O.N/コニー・フランシス
M2.Trust my feelings/柴咲コウ
M3.月のしずく/RUI(柴咲コウ)
M4.かたち あるもの/柴咲コウ